半ノルム

絶対差函数 p(x, y) = |xy| は平面 R2 の半ノルムになる

数学の特に線型代数学および函数解析学における半ノルム(はんのるむ、: semi­norm, semi-norm; セミノルム)は、ベクトル空間上で定義される絶対斉次劣加法的函数で、正定値と制約しないことによるノルムの一般化である。

半ノルムの値は非負かつ符号反転に関して対称であり、函数として 劣線型(ドイツ語版、英語版)かつである。

各半ノルムには、適当な剰余類をとる商構成に誘導されるノルムが付随する。半ノルムからなる族を用いて、局所凸線型空間を定義することができる。

定義

ノルム体 K(ふつうは実数R または複素数C)上のベクトル空間 V に対し、V 上の半ノルムとは、写像 p: VR+
0
 
絶対斉次性および劣加法性を持つものを言う[1]。式で書けば、x, yV および λK を任意として

絶対斉次性
p ( λ x ) = | λ | p ( x ) {\displaystyle p(\lambda x)=|\lambda |\,p(x)}
劣加法性
p ( x + y ) p ( x ) + p ( y ) {\displaystyle p(x+y)\leq p(x)+p(y)}

が成り立つ。ただし、|•| は係数体の絶対値である。半ノルム p を備えたベクトル空間 V半ノルム空間(ドイツ語版) (V, p) と呼ぶ。

  • 任意のノルムは、半ノルムである。
  • 各ベクトルを全て零ベクトルに写す零函数 p(v) ≡ 0 は半ノルムである。
  • 実または複素数値線型函数の絶対値は半ノルムである。
  • 任意の正定値対称双線型形式(または複素半双線型形式(•, •) が誘導する p(x) = (x, x) は半ノルムである。
  • 位相空間 X とそのコンパクト部分集合 KX に対し、pK(f) ≔ supxK |f(x)| と置けば連続函数 XC 全体の成す空間上の半ノルムが定まる。ここで、函数の値をコンパクト集合上でしかとっていないから、右辺の上限は存在して有限となることに注意せよ。
  • 線型空間の併呑かつ絶対凸な部分集合 U に対するミンコフスキー汎函数も半ノルムの例である。
  • ノルム空間 X連続的双対 X* において px(φ) ≔ |φ(x)| (xX, φX*) と置けば、X* 上の半ノルム px が定まる。
  • 連続線型写像の空間 L(X, Y) には、px(T) ≔ |Tx| (xX) および px,ψ(T) ≔ |ψ(Tx)| (xX, ψY*) が半ノルムとして定義できる。

性質

定義から、絶対斉次性の式で λ = 0 とおくことにより、直ちに p(0) = 0, すなわち零ベクトルの半ノルムが零であることが従う。しかしノルムの場合と対照的に、非零ベクトル x ≠ 0 も半ノルムが p(x) = 0 となることが起きうる[注釈 1]

劣加法性(三角不等式とも呼ばれる)において y = −x と置けば、絶対斉次性によって

半正定値性
p ( x ) 0 ( x V ) {\displaystyle p(x)\geq 0\quad (\forall x\in V)}

が従う。また λ = −1 を考えることで、

反転対称性(英語版)
p ( x ) = p ( x ) ( x V ) {\displaystyle p(x)=p(-x)\quad (\forall x\in V)}

が分かる。 また、三角不等式を xy + y に適用して

逆向き三角不等式[注釈 2]
| p ( x ) p ( y ) | p ( x y ) {\displaystyle |p(x)-p(y)|\leq p(x-y)}

の成立も確かめられる。 さらに、半ノルムが劣線型(ドイツ語版)となることは、絶対連続性が正斉次性を導くことから従い、半ノルムの凸性

p ( t x + ( 1 t ) y ) p ( t x ) + p ( ( 1 t ) y ) = t p ( x ) + ( 1 t ) p ( y ) ( 0 t 1 ) {\displaystyle p(tx+(1-t)y)\leq p(tx)+p((1-t)y)=tp(x)+(1-t)p(y)\qquad (0\leq t\leq 1)}

と確かめられる。逆に、絶対斉次凸函数は劣線型であり、したがって半ノルムになる(それを確かめるには、凸性を表す式で t = 1/2 と置いて全体を 2 倍すればよい)。

商ノルム空間

詳細は「ノルム空間」を参照

絶対斉次性と劣加法性から、半ノルム 0のベクトル全体の成す集合

Z = { x V : p ( x ) = 0 } {\displaystyle Z=\{x\in V:p(x)=0\}}

V部分線型空間となることが従う。ここで V 上の同値関係

x y def x y Z {\displaystyle x\sim y{\stackrel {\text{def}}{{}\iff {}}}x-y\in Z}

によって定まる。この同値関係に関する同値類全体の成す集合 ~V は、線型空間として商線型空間 V/Z であり、半ノルム p に関してノルム空間となる。これを V の半ノルム p による商ノルム空間と言う。

このような構成は、例えばLp-空間の定義に用いられる。

半ノルム族

詳細は「局所凸空間」を参照

函数解析学の分野において局所凸線型空間は、半ノルムの族 (pi)iI によってしばしば定義される。これによりもとの線型空間 V位相が入り、V位相線型空間となる。

そのためにまず、部分集合 UVであるとは、適当な xU に対し、ε > 0 と有限個の添字 i1, …, ir が存在して、任意の yV に対して

p i j ( y ) < ε , j = 1 , , r x + y U {\displaystyle p_{i_{j}}(y)<\varepsilon ,\,j=1,\ldots ,r\implies x+y\in U}

となるときに言うと定める。

この文脈において、特定の分離性条件を満足する半ノルム族が特に注目される。半ノルム族 (pi)iI分離的 (separated) あるいは完全 (total) であるとは、各 xV ∖ {0} に対し、少なくとも一つの半ノルム pi が存在して pi(x) ≠ 0 となるときに言う。線型空間 V が先に述べた半ノルム族の定める位相に関してハウスドルフ(分離的)となるのは、ちょうど半ノルム族が分離的となるときである。そのような位相線型空間は局所凸空間と呼ばれる[2]

注釈

  1. ^ つまり、半ノルムの意味(での絶対差)で識別不可であることが同一性を意味しない
  2. ^ 逆三角不等式とも。なおミンコフスキー空間における三角不等式(特定の条件下で、通常とは不等号が「逆向き」の形で成り立つ)とは異なる。

出典

  1. ^ Rudin 1991, pp. 24–25.
  2. ^ Rudin 1991, pp. 26–27.

参考文献

  • Rudin, Walter (1991), Functional Analysis, New York: McGraw-Hill, ISBN 0-070-54236-8 

関連項目

外部リンク

  • Hazewinkel, Michiel, ed. (2001), “Semi-norm”, Encyclopedia of Mathematics, Springer, ISBN 978-1-55608-010-4, https://www.encyclopediaofmath.org/index.php?title=Semi-norm 
  • Todd Rowland. "Seminorm". mathworld.wolfram.com (英語).
  • Seminorm - PlanetMath.(英語)
  • norm in nLab