叛逆航路

叛逆航路
Ancillary Justice
著者 アン・レッキー
訳者 赤尾秀子
発行日 2013年10月1日(アメリカ)
2015年11月21日(日本)
発行元 アメリカ合衆国の旗en:Orbit Books
日本の旗東京創元社
ジャンル サイエンス・フィクション
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
形態 アメリカ合衆国の旗書籍、電子書籍、オーディオブック(朗読アジョア・アンドー(英語版)
日本の旗書籍、電子書籍
ページ数 アメリカ合衆国の旗409
日本の旗496
次作 亡霊星域
コード
  • アメリカ合衆国の旗ISBN 978-0-316-24662-0
  • 日本の旗ISBN 978-4-488-75801-1
ウィキポータル 文学
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叛逆航路』(Ancillary Justice)は2013年に出版されたアメリカの作家アン・レッキーによるサイエンス・フィクション小説。本作はレッキーのデビュー小説であり、『亡霊星域』(2014年)および『星群艦隊』(2015年)と続くラドチ帝国スペースオペラ三部作の一作目である。本作は、裏切り行為によって破壊された宇宙船の唯一の生き残りであるとともに、船の人工意識の受け皿でもあり文明の支配者に対する復讐を求めるブレクの物語である。英語版の表紙はジョン・ハリス(英語版)(日本語版は鈴木康士)。

『叛逆航路』は批評家から称賛をもって迎えられ、ヒューゴー賞[1]ネビュラ賞英国SF協会賞アーサー・C・クラーク賞およびローカス賞 第一長編部門を受賞した。本作はヒューゴー、ネビュラ、アーサー・C・クラークの各賞を同時に受賞した唯一の小説である[2]

別の小説である『動乱星系』(2017年)と、"Night's Slow Poison" および "She Commands Me and I Obey" の短篇2編も同じ架空世界を舞台にしている[3][4]

設定と概要

『叛逆航路』は、拡張主義的なラドチ帝国が人類宇宙の筆頭勢力である数千年先の未来を舞台にしたスペースオペラである。帝国は、人間の身体(「属躰(アンシラリー)」)を兵士として使うために制御している、人工知能によって制御される宇宙船を使用している。ラドチャーイは人々を性別で区別しておらず、これをレッキーはすべての登場人物に女性人称代名詞を使用するとともに、性別が明白な代名詞がある言語を使う必要がある場面でラドチャーイの主人公に誤った推測をさせることで表現している。

物語はラドチの宇宙船 <トーレンの正義> が行方不明になった20年後に、唯一の生き残りの属躰(そして、 <トーレンの正義> の意識の断片)であるブレクが1000年前の <トーレンの正義> の副官である将校セイヴァーデンと出会うところから始まる。二人は氷の惑星におり、セイヴァーデンはあてにならない状態である。筋書きは、ブレクの「現在」の <トーレンの正義> の破壊に対する正義の探求と、 <トーレンの正義> が公式にラドチ帝国に併合される惑星シスウルナ軌道上にいた19年前のフラッシュバックを行き来する。読者は最終的に <トーレンの正義> の破壊は、広大な帝国を支配するために複数の同期させた身体を使用しているラドチ皇帝アナーンダ・ミアナーイの意識の対立する二つの陣営の秘密の戦いの結果であることを知る。小説の終わりで、ブレクは自分の復讐を実行する機会を待つ間、より平和的な傾向のアナーンダ・ミアナーイと手を組む。

批評家の反応

本作は広く評価されて認められたが、批判的な反応もあった。ローカス誌でのラッセル・レトソンの書評では、イアン・M・バンクスUse of Weapons を彷彿とさせる、過去と現在のいくつかの流れを織り交ぜたレッキーの小説の意欲的な構成と、バンクス、アーシュラ・K・ル=グウィン、C.J.チェリイらが確立した、近年のスペースオペラの比喩表現への取り組みが評価されている。そしてレトソンは「これは入門用SFではなく、それだけに見返りも大きい」と結論付けている[5]

NPR向けに書いているジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン(英語版)の意見では、「安心感のある、魅力的でスタイリッシュ」な小説は、巨視的な帝国の物語としても、微視的な登場人物の描き方でも成功している[6]。en:Tor.comのリズ・バークはレッキーの世界構築と「もっともすぐれたスリラー著作のように、前向きな推進力があって、明晰で力強い」筆致を称賛し、『叛逆航路』は「非常に面白い小説でも、概念的で野心的な小説でもある」と結論付けている[7]

Arc でのニーナ・アラン(英語版)の書評はいささか批判的であり、この小説には「怠惰、皮肉、あるいは特に商業主義的なものはない」としながらも、その特性を批判し、スペースオペラの比喩の無批判な採用や、それが伝える「失望するほど単純な」考え(例えば、帝国が悪だというような)によって、『叛逆航路』は「古いタイプのSF小説、ジャンル規範のあくなき再録で部外者にとっては多少なりとも不可解なものになっている」と考えている

テレビ制作

本作は2014年10月に制作会社のFabrikとフォックス21 テレビジョン・スタジオによってテレビ向けの映像化権が取得された。レッキーはプロデューサーがジェンダーにとらわれない、肌の黒いラドチャーイのキャラクターを映像媒体でどう表現するかという自身の懸念に前向きに応えてくれたと書いている[8]

脚注

  1. ^ “2014 Hugo Award Winners”. The Hugo Awards (2014年8月17日). 2014年8月17日閲覧。
  2. ^ Henderson, Jane (2014年8月18日). “Leckie is first to take triple crown of science fiction awards”. St. Louis Post-Dispatch. https://www.stltoday.com/entertainment/books-and-literature/book-blog/leckie-is-first-to-take-triple-crown-of-science-fiction/article_89af4e4c-d7bb-55f6-81e6-9894084fb6c7.html 
  3. ^ Leckie, Ann (2014年6月10日). “Night's Slow Poison”. Tor.com. 2014年6月11日閲覧。
  4. ^ Leckie, Ann (10 November 2014). “She Commands Me and I Obey”. Strange Horizons. オリジナルの21 March 2015時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150321212448/http://www.strangehorizons.com/2014/20141110/commands-f.shtml 2015年3月17日閲覧。. 
  5. ^ Letson, Russell (2013年10月27日). “Russell Letson reviews Ann Leckie”. Locus. オリジナルの2013年11月10日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131110223141/http://www.locusmag.com/Reviews/2013/10/russell-letson-reviews-ann-leckie/ 2013年12月27日閲覧。 
  6. ^ Valentine, Genevieve (2013年10月8日). “A Skillfully Composed Space Opera In 'Ancillary Justice'”. NPR. オリジナルの2013年11月13日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131113052257/http://www.npr.org/2013/10/08/228508903/a-skillfully-composed-space-opera-in-ancillary-justice 2013年12月27日閲覧。 
  7. ^ Bourke, Liz (2013年9月6日). “'Nothing quite clarifies your thoughts like thinking you're about to die.' Ann Leckie's Ancillary Justice”. Tor.com. オリジナルの2014年3月4日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140304012630/http://www.tor.com/blogs/2013/09/book-review-ann-leckie-ancillary-justice 2013年12月27日閲覧。 
  8. ^ “Ann Leckie's Hugo-winning Ancillary Justice Optioned for Television”. Tor.com. (2014年10月22日). http://www.tor.com/blogs/2014/10/ancillary-justice-tv-show-option 2014年10月23日閲覧。 

外部リンク

  • アン・レッキーのウェブサイトの『叛逆航路』のページ
1966–1975
1976–2000
2001–現在
レトロ
1953–1975
1976–2000
2001–現在
英国SF協会賞 長編部門(英語版)
1969–1979
1980–1989
1990–1999
2000–2009
2010–2019
  • 旋舞の千年都市(英語版)The Dervish House イアン・マクドナルド(2010年)
  • 夢幻諸島から(英語版)The Islanders クリストファー・プリースト(2011年)
  • ジャック・グラス伝(英語版)Jack Glass アダム・ロバーツ(2012年)
  • 『叛逆航路』 Ancillary Justice アン・レッキーおよび『ガンメタル・ゴースト(英語版)Ack-Ack Macaque ガレス・L・パウエル(tie) (2013年)
  • 亡霊星域Ancillary Sword アン・レッキー(2014年)
  • The House of Shattered Wings アリエット・ド・ボダール(英語版)(2015年)
  • Europe in Winter デイヴィッド・ハッチンソン(英語版)(2016年)
  • The Rift ニーナ・アラン(英語版)(2017年)
  • 『ウォーシップ・ガール』 Embers of War ガレス・L・パウエル(2018年)
  • Children of Ruin エイドリアン・チャイコフスキー(英語版)(2019年)
2020-現在
1981–1990
1991–2000
  • In the Country of the Blind マイクル・F・フリン(英語版)(1991年)
  • 『虚ろな穴』 The Cipher キャシー・コージャ(英語版)(1992年)
  • China Mountain Zhang モーリーン・F・マクヒュー(英語版)(1993年)
  • Cold Allies パトリシア・アンソニー(英語版)(1994年)
  • 銃、ときどき音楽(英語版)Gun, with Occasional Musicジョナサン・レセム(1995年)
  • 『極微機械 ボーア・メイカー』 The Bohr Maker リンダ・ナガタ(1996年)
  • 『大いなる復活のとき』 Reclamation サラ・ゼッテル(英語版)および Whiteout セイジ・ウォーカー(英語版)(1997年)
  • The Great Wheel イアン・R・マクラウド(1998年)
  • Brown Girl in the Ring ナロ・ホプキンスン(1999年)
  • The Silk Code ポール・レヴィンソン(2000年)
2001–2010
2011–2020
  • 空の都の神々はThe Hundred Thousand Kingdoms N・K・ジェミシン(2011年)
  • 夜のサーカス(英語版)The Night Circus エリン・モーゲンスターン(英語版)(2012年)
  • Throne of the Crescent Moon by サラディン・アフメド(英語版)(2013年)
  • 『叛逆航路』 Ancillary Justice アン・レッキー(2014年)
  • The Memory Garden M・リッカート(英語版)(2015年)
  • 『蒲公英王朝記』 The Grace of Kings ケン・リュウ(2016年)
  • ナインフォックスの覚醒(英語版)Ninefox Gambit ユーン・ハ・リー(2017年)
  • メアリ・ジキルとマッドサイエンティストの娘たち(英語版)The Strange Case of the Alchemist's Daughter シオドラ・ゴス(2018年)
  • Trail of Lightning レベッカ・ローンホース(英語版)(2019年)
  • Gideon the Ninth タムシン・ミュアー(英語版)(2020年)
2021-現在
  • Elatoe ダーシー・リトル・バッジャー(2021年)
1987-2000
  • 侍女の物語』 "The Handmaid's Tale" (1987年)
  • 沈みゆく塔(英語版)』 "The Sea and Summer" (1988年)
  • 消えない火(英語版)』 "Unquenchable Fire" (1989年)
  • "The Child Garden" (1990年)
  • "Take Back Plenty" (1991年)
  • "Synners" (1992年)
  • "Body of Glass" (1993年)
  • ヴァート(英語版)』 "Vurt" (1994年)
  • "Fools" (1995年)
  • フェアリイ・ランド(英語版)』 "Fairyland" (1996年)
  • カルカッタ染色体(英語版)』 "The Calcutta Chromosome" (1997年)
  • "The Sparrow" (1998年)
  • ドリーミング・イン・スモーク(英語版)』 "Dreaming in Smoke" (1999年)
  • "Distraction" (2000年)
2001-現在
  • ペルディード・ストリート・ステーション(英語版)』 "Perdido Street Station" (2001年)
  • "Bold As Love" (2002年)
  • 双生児(英語版)』 "The Separation" (2003年)
  • "Quicksilver" (2004年)
  • "Iron Council" (2005年)
  • エア(英語版)』 "Air" (2006年)
  • "Nova Swing" (2007年)
  • "Black Man" (2008年)
  • "Song of Time" (2009年)
  • 都市と都市』 "The City & the City" (2010年)
  • ZOO CITY(英語版)』 "Zoo City" (2011年)
  • 世界を変える日に(英語版)』 "The Testament of Jessie Lamb" (2012年)
  • "Dark Eden" (2013年)
  • 『叛逆航路』 "Ancillary Justice" (2014年)
  • ステーション・イレブン(英語版)』 "Station Eleven" (2015年)
  • 時の子供たち(英語版)』 "Children of Time" (2016年)
  • 『地下鉄道』 "The Underground Railroad" (2017年)
  • "Dreams Before the Start of Time" (2018年)
  • "Rosewater" (2019年)
  • "The Old Drift" (2020年)
  • "The Animals in that Country" (2021年)
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