高井忍

(たかい しのぶ、1975年 -)は、日本の小説家推理作家本格ミステリ作家クラブ会員。

京都府生まれ。立命館大学産業社会学部卒業。大学在学中は推理小説研究会に所属。2005年、短編「漂流巌流島」で東京創元社主催の第2回ミステリーズ!新人賞を受賞しデビューした。

作風

デビュー以来、歴史上の実際の事件を題材にした歴史ミステリーを中心に発表。

これは出版社からの要請に従ったもので、歴史の検証や突飛な珍説自体に興味はないと断っている。作中で展開する解釈は一部を除いて自身でも信用していない[1]。一方で、歴史ミステリーを含む偽史や歴史系トンデモ説に対しては全般に否定の姿勢であり、強い不快感を表明している。『本能寺遊戯』『蜃気楼の王国』以降は偽史批判の傾向が極めて強い。

歴史ミステリーについては、歴史の真実や検証を掲げていてもこれは建前で、正史は間違いだという前提で歴史上の実際の事件に読者の興味を惹くような結論を作ることが当初から目的の企画であり、本質的には偽史であり、歴史のオカルトなのだと説明する。読者に対しては、本当に歴史の真相に関心があるのなら、専門書や入門書を読むように呼びかけている[2][3]

『浮世絵師の遊戯』の巻末に「本書はあくまでフィクションであり、歴史上の実際の出来事の検証を目的とはしておらず、初めから珍奇な解釈をかかげることによって読者の興味を惹こうとの意図から創作されたものである。よって、考証の上の信頼性についてはいっさい責任を負わない」と但し書きをつけた。これに対する批判には「いままでの研究は間違いだ、専門家は信用ができないとでも書いておいたら満足するのだろうか?」「こうしたものをまさか彼らは本気にして読んでいるのだろうか?」と反駁している[3]

浮世絵師東洲斎写楽の正体については斎藤十郎兵衛説を支持する一方、世界三大肖像画家の一人とする通説は提唱者とされるユリウス・クルトの著作にそのような記述が存在せず、日本国内から広がった偽史だと主張している。

作品リスト

歴史ミステリ(メタフィクションを含む)
  • 漂流巌流島 (ミステリ・フロンティア東京創元社、2008年7月 のち創元推理文庫)ISBN 978-4-488-01732-3
  • 本能寺遊戯 (東京創元社、2013年2月 のち創元推理文庫)ISBN 978-4-488-02712-4
  • 浮世絵師の遊戯 新説 東洲斎写楽(文芸社、2016年11月 のち文芸社文庫)ISBN 978-4-286-17754-0
  • 近江屋 一八六七年 百五十年の真相(文芸社、2017年11月)ISBN 978-4-286-18756-3
  • 京都東山 美術館と夜のアート(創元推理文庫、2019年1月)ISBN 978-4-488-41215-9
歴史・時代小説
  • 柳生十兵衛秘剣考 (創元推理文庫、2011年2月)ISBN 978-4-488-41212-8
  • 蜃気楼の王国(光文社、2014年2月 のち光文社文庫)ISBN 978-4-334-92929-9
  • 柳生十兵衛秘剣考 水月之抄(創元推理文庫、2015年6月)ISBN 978-4-488-41213-5
  • 名刀月影伝(角川文庫、2016年11月)ISBN 978-4-041-04120-8
  • 妖曲羅生門 御堂関白陰陽記(光文社、2017年9月)ISBN 978-4-334-91186-7
単行本未収録
  • 鹿島神道流〝一ノ太刀〟[4](ミステリーズ! vol.62 DECEMBER 2013、2013年12月)ISBN 978-4-488-03062-9
  • 東洲斎写楽「伝説」考[5]歴史研究 第675号、2019年10月)ISBN 978-4-865-48088-7
  • 円明流宮本武蔵(妖ファンタスティカ2、2019年11月)ISBN 978-4-883-75380-2
  • 東洲斎写楽歿後二百年(歴史研究 第679号、2020年3月)ISBN 978-4-865-48094-8
  • 仲田勝之助と「寫樂」(歴史研究 第691号、2021年5・6月)ISBN 978-4-865-48109-9
アンソロジー
  • ベスト本格ミステリ2011(講談社ノベルス、2011年6月) - 「聖剣パズル」 ISBN 978-4-061-82782-0
    • 【改題】からくり伝言少女(講談社文庫、2015年1月)ISBN 978-4-062-93019-2
  • ザ・ベスト・ミステリーズ 2012 推理小説年鑑(2012年7月 講談社) - 「新陰流“月影”」 ISBN 978-4-06-114913-7
    • 【分冊・改題】Question 謎解きの最高峰 ミステリー傑作選(2015年11月 講談社文庫) ISBN 978-4-06-293092-5
  • ベスト本格ミステリ2016(講談社ノベルス、2016年6月) - 「新陰流“水月”」 ISBN 978-4062990769
    • 【分冊・改題】ベスト本格ミステリ TOP5 短編傑作選002 (2019年2月、講談社文庫) ISBN 978-4065147627
  • ヤオと七つの時空の謎(2019年10月 南雲堂) - 「天狗火起請」 ISBN 978-4523265894

脚注

[脚注の使い方]

出典

  1. ^ 『BIRLSTONE GAMBIT』特集1 高井忍
  2. ^ 『本能寺遊戯』文庫版付記
  3. ^ a b 『近江屋 一八六七年 百五十年の真相』付記
  4. ^ 『柳生十兵衛秘剣考』の単行本未収録短編
  5. ^ 世界三大肖像画家の俗説の成り立ちに関する考証

参考文献

関連項目

外部リンク

  • Webミステリーズ! 『漂流巌流島』ここだけのあとがき


ミステリーズ!新人賞
受賞作
  • 第1回 受賞作なし
  • 第2回 高井忍「漂流巌流島」
  • 第3回 秋梨惟喬「殺三狼」 / 滝田務雄田舎の刑事の趣味とお仕事
  • 第4回 沢村浩輔「夜の床屋」
  • 第5回 梓崎優砂漠を走る船の道」 / 市井豊「聴き屋の芸術学部祭」(佳作)
  • 第6回 受賞作なし
  • 第7回 美輪和音「強欲な羊」 / 明神しじま「商人の空誓文」(佳作) / 深緑野分「オーブランの少女」(佳作)
  • 第8回 受賞作なし
  • 第9回 近田鳶迩「かんがえるひとになりかけ」 / 中村みしん「○の一途な追いかけかた」(佳作) / 天野暁月「清然和尚と仏の領解」(佳作)
  • 第10回 櫻田智也「サーチライトと誘蛾灯」
  • 第11回 浅ノ宮遼「消えた脳病変」
  • 第12回 伊吹亜門「監獄舎の殺人」 / 榊林銘「十五秒」(佳作)
  • 第13回 受賞作なし
  • 第14回 受賞作なし / 丹野一郎「未知との遭遇」(優秀賞)
  • 第15回 齊藤飛鳥「屍実盛」
  • 第16回 床品美帆「ツマビラカ~保健室の不思議な先生~」
  • 第17回 大島清昭「影踏亭の怪談」 / オオシマカズヒロ「噛む老人」
  • 第18回 柳川一「三人書房」 / 村嶋祝人「百円玉」(優秀賞)
  • 第19回 真門浩平「ルナティック・レトリーバー」
選考委員
関連項目
典拠管理データベース ウィキデータを編集
全般
  • ISNI
  • VIAF
国立図書館
  • 日本
  • 表示
  • 編集