J・D・ヴァンス

J. D. ヴァンス
James David Vance
生年月日 (1984-08-02) 1984年8月2日(40歳)
出生地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
オハイオ州の旗 オハイオ州ミドルタウン
出身校 オハイオ州立大学
イェール・ロー・スクール
所属政党 共和党
配偶者 ユーシャ・チルクリ・ヴァンス(英語版)
子女 3人
サイン

選挙区 オハイオ州の旗 オハイオ州
当選回数 1回
在任期間 2023年1月3日 - 現職
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ジェームズ・デイヴィッド・ヴァンス[1][2]英語: James David Vance1984年8月2日 - )は、アメリカ合衆国政治家作家ベンチャーキャピタリスト2023年オハイオ州選出の上院議員に就任し、2024年大統領選挙において共和党候補者ドナルド・トランプの副大統領候補に選出された[3]

JDヴァンスまたはJ.D.ヴァンスと表記されることが多い。ヴァンスのワシントン事務所はウォール・ストリート・ジャーナルに対し、本人は「.」無しのJDヴァンスの表記を好んでいるとしている[4]

来歴

幼少期

ジェームズ・デイヴィッド・ヴァンスは、1984年にオハイオ州ミドルタウンにて、ドナルド・レイ・ボウマン(1959年・2023年没)とベヴァリー・キャロル・ボウマン(旧姓ヴァンス、1961年生)の息子ジェームズ・ドナルド・ボウマンとして誕生[2]。ヴァンスの上には、母親が19歳で出産した姉リンジーがいる。ヴァンスがまだ幼いころに両親は離婚し、その後まもなく、母親の3番目の夫ボブ・ハメルの養子に迎えられ、ジェームズ・デイヴィッド・ハメルと改名。ヴァンスの幼い頃から母親は鎮痛剤を常用し、その後はヘロインに依存するようになる。母親は結婚と離婚を繰り返して生活が安定していなかったため、ヴァンスと姉は主に母方の祖父母であるジェームズ・ヴァンス(1929年生・1997年没)とボニー・ヴァンス(旧姓ブラントン、1933年生・2005年没)に育てられた[5][6][7]。この幼少期に体験した祖父母のアルコール依存症と虐待、そして不安定な母親の薬物中毒と人間関係の失敗の歴史および貧困と低賃金の肉体労働の姿、暴力や暴言その中での忠誠心や国への愛、アパラチア文化やヒルビリー(英語版)スコットランド語で山岳民族)と呼ばれた貧困層の白人肉体労働者たちの生活様式や貧困の社会問題の提示は後に自叙伝として出版された。

学歴

2003年に故郷の公立ミドルタウン高校(英語版)を卒業後[8]アメリカ海兵隊[9]に入隊。2005年後半から6か月間イラクに派兵されて広報担当として活動した[10]。除隊後の2009年にオハイオ州立大学オハイオ州コロンバス)でB.A.の学位を取得[11]。在学中には共和党の上院議員ボブ・シューラーの下で働いた[12]

オハイオ州立大学を卒業後、イェール大学のロースクールJD(法務博士)の学位を取得。イェール大学での最初の年に、指導教官であるエイミー・チュアから、自伝を書くよう勧められる。

初期の職歴

ロースクールを卒業後、ピーター・ティールが所有するベンチャーキャピタル会社[13]、Mithril Capital Management, LLCで社長を務める[14]。2020年にはオハイオ州シンシナティに本社を置くNarya Capitalのために9300万ドルを調達した[15]

作家として

自伝『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』で知られる。この自伝には作家本人が育ったアパラチア地方の価値観と、社会的問題との関連が描かれる。同書は2016年2017年ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに載り、2017年にはデイトン文学平和賞(英語版)の最終選考にも残った[16]2016年大統領選挙中は、白人労働者階層の姿を描いたものとして全米のメディアから注目を集めた[17][18]

同書は人気を博し批評家からも賞賛されたが、アパラチア地方の批評家からは批判的な評価も受けている。ヴァンスは本来の意味での「ヒルビリー」でも白人労働者階層の代表でもなく、本来の「ヒルビリー」である祖父母やその故郷の人々(ヴァンス自身は少年期にそこで何度か夏を過ごした)の経験やアイデンティティを、彼自身のものと意図的に混同させていると述べる[19]。一方で、ヴァンスはこれらの文化を代表しているとして支持する批評もある[20]

2017年4月にはロン・ハワードが『ヒルビリー・エレジー』の映画化作品の監督に就任[21]。2020年にドラマ映画『ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌』として公開された[22]

政治家として

2016年12月、ヴァンスはオハイオ州に引っ越してNPO「Our Ohio Renewal」を設立[23]。政治家を目指す準備を始め[24]、ラストベルトに広がる薬物依存問題への対策を始める[25]

2017年1月にはCNNの寄稿者となる[26]

2022年中間選挙ではオハイオ州から上院選に名乗りを上げ、ドナルド・トランプの支持も得て5月3日予備選挙で共和党候補になった[27][28][3]。その後、民主党候補のティム・J・ライアン(英語版)を破りオハイオ州選出の上院議員となった[29]

2024年7月15日、同年の大統領選挙に出馬しているドナルド・トランプの副大統領候補に指名されたことが発表され[30][3]、同日より開催された共和党全国大会にてトランプとともに共和党の正副大統領候補に指名された[31]

ロイター通信などの報道によれば2024年7月上旬のワシントン保守派の会合において、スターマー首相率いる労働党新政権のイギリスについて、友人と「を持つ最初の真のイスラム主義国はどこになるか」について話し合ったと述べた。そして「イランかもしれないが、実際には労働党が政権を取ったイギリスだろうと話した」と発言したことが明らかになっており、イギリスの与野党双方から反発の声が上がっている[32]

  • 1984年8月13日にオハイオ州で記録された出生証明書。氏名は「ジェームズ・デイヴィッド・ハメル」とされている。
    1984年8月13日にオハイオ州で記録された出生証明書。氏名は「ジェームズ・デイヴィッド・ハメル」とされている。
  • 2003年、アメリカ海兵隊時代のヴァンス(ハメル)。
    2003年、アメリカ海兵隊時代のヴァンス(ハメル)。
  • 2017年のヴァンス。
    2017年のヴァンス。
  • 2024年7月15日、共和党全国大会でのトランプとヴァンス。
    2024年7月15日、共和党全国大会でのトランプとヴァンス。

政治的立場

ヴァンスは自身の政治的立場を「社会保守主義」とするが、現在の共和党の方針には批判的である。特に経済政策については、共和党のプラットフォームは労働者階層を犠牲にして富裕層に利益を与えていると批判している。米国製造業の復興、石油天然ガス石炭の掘削推進、国境管理強化など、主要政策はトランプと重なる部分が多い。地元オハイオ州にはウクライナからの移民が多いが、「米国第一主義」を掲げ、ロシアの侵攻を受けるウクライナへの支援継続に強硬に反対している[3]

対日政策

対日政策については2024年7月現在、具体的な明言はないが、USスチールに対する日本製鉄の買収には反対するなどの、保護主義的な姿勢が強い[33]。ジャーナリストの有本香はバンスが生まれ育ったのはジャパンバッシングが高まった1980年代のラストベルトであることに注視し、今後対中政策などにおいて日本に対し明確なスタンスを示すように要求してくる可能性を指摘している[34][より良い情報源が必要]

私生活

  • ヴァンスはロースクール時代の同級生、ユーシャ・チルクリ(英語版)と結婚。チルクリはインド系アメリカ人で、2014〜15年にはブレット・カバノー判事の、2017〜18年には最高裁判所長官ジョン・ロバーツ裁判研究員(英語版)を務めた[35]。2人の間には息子ユアンがいる[36]
  • 2019年8月、ヴァンスはオハイオ州シンシナティカトリックに改宗[37]。洗礼式にはロッド・ドレーアーをはじめ多くの保守主義者が列席した。洗礼式の後、ドレーアーとのインタビューでヴァンスは、改宗した理由は「カトリシズムが正しいということが徐々にわかってきたから」であり、カトリックの教義は自身の政治的な意見に影響を与えていると述べている[37]

著作

出典

[脚注の使い方]
  1. ^ “Summary - Hillbilly Elegy: By James David Vance - A Memoir of a Family and Culture in Crisis”. GoodReads.com. May 10, 2017閲覧。
  2. ^ a b “Hillbilly Elegy: A Memoir of a Family and Culture in Crisis”. Enotes.com. May 10, 2017閲覧。
  3. ^ a b c d “トランプ氏、副大統領候補にバンス氏指名 「後継者」最有力候補に”. 毎日新聞デジタル. (2024年7月16日). https://mainichi.jp/articles/20240716/k00/00m/030/008000c 2024年7月19日閲覧。 
  4. ^ “Vol. 37, No. 7: JD Vance”. The Wall Street Journal (New York City). (July 17, 2024). オリジナルのJuly 24, 2024時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20240724055659/https://www.wsj.com/arts-culture/television/vol-37-no-7-jd-vance-a5c4683c July 25, 2024閲覧。 
  5. ^ “Hillbilly Elegy by JD Vance review – does this memoir really explain Trump’s victory?”. The Guardian (December 7, 2016). October 19, 2020閲覧。
  6. ^ “The Lives of Poor White People”. The New Yorker (September 12, 2016). October 19, 2020閲覧。
  7. ^ “'Hillbilly Elegy' Recalls A Childhood Where Poverty Was 'The Family Tradition'”. NPR (August 17, 2016). October 19, 2020閲覧。
  8. ^ Michael D. Clark (March 10, 2017). “Middletown native J.D. Vance's book started with simple question”. JournalNews.com. May 10, 2017閲覧。
  9. ^ “Former Marine J.D. Vance's 'Hillbilly Elegy' Will Be Made into a Movie”. Military.com. July 27, 2017閲覧。
  10. ^ “J.D. Vance | Speaker”. TED. 2020年10月19日閲覧。
  11. ^ “J.D. Vance to Speak About Memoir Hillbilly Elegy Feb. 2”. Yale Law School (January 27, 2017). May 10, 2017閲覧。
  12. ^ Vance, J. D. (2017). Hillbilly Elegy. London, U.K.: William Collins. p. 181. ISBN 9780008220563. OCLC 965479512. "I took a job at the Ohio Statehouse, working for a remarkably kind senator from the Cincinnati area named Bob Schuler. He was a good man, and I liked his politics, so when constituents called and complained, I tried to explain his positions." 
  13. ^ Sarah McBride (January 20, 2017). “Peter Thiel's Mithril Capital Raises $850 Million VC Fund”. Bloomberg Technology. May 10, 2017閲覧。
  14. ^ Loizos, Connie (9 January 2019). “‘Hillbilly Elegy’ author J.D. Vance has raised $93 million for his own Midwestern venture fund”. TechCrunch. https://techcrunch.com/2020/01/09/hillbilly-elegy-author-j-d-vance-has-raised-93-million-for-his-own-midwestern-venture-fund/ 15 January 2020閲覧。 
  15. ^ Loizos, Connie (9 January 2019). “‘Hillbilly Elegy’ author J.D. Vance has raised $93 million for his own Midwestern venture fund”. TechCrunch. https://techcrunch.com/2020/01/09/hillbilly-elegy-author-j-d-vance-has-raised-93-million-for-his-own-midwestern-venture-fund/ 15 January 2020閲覧。 
  16. ^ “2017”. Dayton Literary Peace Prize. 2024年7月16日閲覧。
  17. ^ Rothman. “The Lives of Poor White People”. The New Yorker. March 6, 2017閲覧。
  18. ^ SENIOR. “Review: In ‘Hillbilly Elegy,’ a Tough Love Analysis of the Poor Who Back Trump”. The New York Times. March 6, 2017閲覧。
  19. ^ Kiser. “Author too removed from culture he criticizes”. Lexington Herald-Leader. March 6, 2017閲覧。
  20. ^ Miles. “Author J.D. Vance does have hillbilly cred — like it or not”. Lexington Herald Leader. March 6, 2017閲覧。
  21. ^ Reed. “Ron Howard to Direct, Produce 'Hillbilly Elegy' Movie”. RollingStone. April 12, 2017閲覧。
  22. ^ “ヒルビリー・エレジー 郷愁の哀歌”. 映画.com. 2024年7月16日閲覧。
  23. ^ Fahrenthold, David A. (October 8, 2022). “J.D. Vance’s First Attempt to Renew Ohio Crumbled Quickly”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2022/10/08/us/politics/jd-vance-ohio-senate-nonprofit.html 2024年7月16日閲覧。 
  24. ^ Hohmann. “The Daily 202: Why the author of ‘Hillbilly Elegy’ is moving home to Ohio”. The Washington Post. October 19, 2020閲覧。
  25. ^ Heller. “‘Hillbilly Elegy’ made J.D. Vance the voice of the Rust Belt. But does he want that job?”. The Washington Post. October 19, 2020閲覧。
  26. ^ A. J. Katz (Jan 17, 2017). “CNN Strengthens its Roster of Commentators and Contributors”. AdWeek.com. April 27, 2017閲覧。
  27. ^ “米中間選挙、予備選が本格化 オハイオ州、トランプ氏推薦候補が勝利”. 朝日新聞デジタル. 2022年5月4日閲覧。
  28. ^ “米オハイオ州の上院選は接戦の見通し、知事選は現職デワイン氏優勢、世論調査”. 日本貿易振興機構 (2022年6月3日). 2023年7月20日閲覧。
  29. ^ “オハイオ州の上院、共和党候補が当確 トランプ氏推薦が追い風に”. 毎日新聞. (2022年11月9日). https://mainichi.jp/articles/20221109/k00/00m/030/275000c 2024年7月20日閲覧。 
  30. ^ “JD Vance named as Trump's running mate”. BBC News. BBC. (2024年7月15日). https://www.bbc.com/news/articles/cx992q2nyx0o 2024年7月16日閲覧。 
  31. ^ “At RNC, delegates formally nominate Ohio Sen. JD Vance for vice president”. USAトゥデイ. (2024年7月16日). https://www.usatoday.com/story/news/politics/elections/2024/07/15/rnc-2024-delegates-formally-nominate-jd-vance-for-vice-president/74416559007/ 2024年7月16日閲覧。 
  32. ^ “米共和党のバンス氏、「労働党の英国は核持つイスラム主義国家」”. 毎日新聞デジタル. (2024年7月20日). https://mainichi.jp/articles/20240720/k00/00m/030/017000c 2024年7月20日閲覧。 
  33. ^ “副大統領候補バンス氏、共和党きっての「孤立主義者」…日本製鉄のUSスチール買収も強く反対”. 読売新聞オンライン. (2024年7月16日). https://www.yomiuri.co.jp/world/uspresident/20240716-OYT1T50016/ 2024年8月10日閲覧。 
  34. ^ 有本香『米副大統領候補J.D.ヴァンズ氏原作の『ヒルビリー・エレジー』を観て、マズいことに気づいた!』(Youtube)有本香チャンネル、2024年7月20日。https://www.youtube.com/watch?v=HnBHccSXNIY&t=2189s2024年8月10日閲覧 
  35. ^ “Usha C. Vance”. www.mto.com. 2019年8月23日閲覧。
  36. ^ Ferenchik, Mark (July 31, 2017), J.D. Vance draws crowds, and questions about political future, The Columbus Dispatch, http://www.dispatch.com/news/20170731/jd-vance-draws-crowds-and-questions-about-political-future 
  37. ^ a b Dreher, Rod (2019年8月11日). “J.D. Vance Becomes Catholic”. The American Conservative. 2019年8月11日閲覧。

外部リンク

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